第二章

 

 

 

王女は、アイリスが来ると大変喜んだ。

「まあ、アイリス!なかなか似合ってるじゃない!」

「ありがとう。」アイリスは少しはにかんだ笑みを浮かべる。

「でも・・・その髪は酷いわね。・・・あなた、髪を染めたの?わたくしは、あなたの髪はもっと赤かった気がするのだけど・・・。」

「・・・この一ヶ月でこうなっちゃったのよ。」アイリスは少し気落ちして言う。

「まあ!そんな事があるのね。アイリス、こちらに座りなさい。その跳ね毛を直してあげるわ。メアリ!」コアケッドはアイリスを座らせると、声を上げる。

すぐに、小さな戸から侍女が一人入ってきた。

「あっ!」アイリスは見覚えのある顔に声を上げる。

入ってきた侍女は、アイリスが一ヶ月ほど前に城に泊まった時に、アイリスの世話をしてくらた女性だった。

「お久し振りです。アイリス様。コアケッド様、アイリス様の髪をお直しすればよろしいのですね?」メアリは鏡の前にあった箱を開けながら聞く。

「ええ、そうよ。」コアケッドは満足そうに微笑んだ。

「お安い御用ですわ。アイリス様の髪質は、大変コアケッド様のものと似ていらっしゃったのを覚えています。恐らく、すぐに出来ますわ。」メアリはアイリスの茶毛を手に取りながら言った。

十分後、アイリスの髪は綺麗な巻き毛になっていた。

「うわ!ありがとう、メアリさん!・・・ねえ、メアリさん。その・・・もしお暇がおありなら、時々私の侍女をしているアマンダって子とお茶でもしてもらえないかしら?あの・・・アマンダは、私の育った村の娘で、都の生活に慣れてないし、私は授業とかがあるから、アマンダといつも一緒にいられるわけじゃないでしょ?それに、侍女という仕事にも慣れていないと思うのよ。その、コアケッドが良かったら・・・なんだけど・・・。」アイリスは、コアケッドとメアリの顔を伺いながら恐る恐る提案する。

「わたくしは構わないわよ。」コアケッドはニコリと笑って言う。「メアリ、その子の事を気にかけてあげてちょうだい。」

「はい、わかりました。」メアリは頭を軽く下げる。

「ありがとう、コアケッド、メアリさん!きっとアマンダも喜ぶわ。」アイリスはホッとして言う。

「気にしないで。それでは、食堂に向かいましょう。学園長先生は、とっても時間に厳しい方なのよ。初日から時間を守れないで、お夕食抜きなんて、イヤでしょう。」

「うっ、それはイヤだわ。」考えるのも恐ろしいというように、アイリスは肩を震わせて言った。

      

廊下を出ると、人々の視線が自分に向けられている事をアイリスはヒシヒシと感じた。

―みんな知ってるのね、私の事を。ノウドゥリー家最後の生き残りだってことを・・・。―アイリスは不安に慄いた。―この先、私は上手くやっていけるのかしら?―アイリスはコアケッドの背中を見て、溜息を吐いた。

    

食堂は男女共に同じ場所であった。アイリスはコアケッドの後について一つの長テーブルに座った。

一時してから、ローヤルがやって来た。ローヤルはアイリスと背中合わせにして座った。アイリスは後ろにローヤルがいるとわかると、落ち着いた。

ローヤルは濃紺の上着に白いワイシャツを着ていた。首元には上着と同じ色のリボンを巻いていた。正装の制服だ。

アイリスはローヤルに話しかけようと振り向きかけたが、王女がアイリスの腕を引っ張り首を横に振った。

「公式の場では、女性は男性から話しかけられるまでは、話しかけてはダメなの。それに、学園長はこのような場で、生徒がおしゃべりするのをあまり好まないわ。だから、アイリス、我慢して。」王女は小声で言う。

「ありがとう。」アイリスも小声で返すと、悲しそうにフォークを取った。

―ローヤルと話して、気を落ち着かせようと思ったのに・・・。―

アイリスは食事中、ずっとローヤルの様子を探っていたが、ローヤルは食べるのに忙しいようで、一度もアイリスを見ず、合図も送ってこなかった。アイリスは気落ちした。

    

学校生活が実際に始まると、アイリスはますますローヤルに会えなかった。なぜなら、授業の殆どが男女別々だからだ。

廊下ですれ違ったとしても、ローヤルはいつも貴公子に囲まれていて、近寄ってはいけない気がした。アイリスは寂しかった。

村にいた時もそうだったが、ローヤルは友達を作るのが上手らしい。すぐに神学校に溶け込み、集団の中心にいた。女の子たちも受けが良く、それがアイリスにはまったくもって面白くなかった。

その上面白くない事実は、アイリスの側にいるのは、未だにコアケッドしかいないことだ。その原因が、自分にあるのか、コアケッドにあるのか、はたまた両方にあるのか、アイリスには判別がつかなかった。一つわかったのは、アイリスとローヤル以外に、王女のことを呼び捨てて呼ぶ人間はいないということだ。その事をコアケッドに告げると、彼女は泣きそうな顔になった。

「わたくし、あなたにまたよそよそしく呼ばれたりしたら、悲しくって心が張り裂けてしまうわ。」

少し迷ったが、アイリスはコアケッドのことが好きになっていたし、彼女を泣かせたいとも思っていなかったので、“コアケッド”と呼ぶことにした。

   

   

    

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Photo by Four seasons

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