第四章

 

 

 

アレン・カルベルトは、あれ以来色んなところで出没した。

それも毎回、アイリスが一人の時を狙ってだ。彼は魅惑的な笑みを浮かべてアイリスに話しかけてきたが、いつも目は全く笑っていなかった。

「やあ、お姫様。」

アレンはアイリスに話しかける時、必ずこうやって呼びかける。その度に、アイリスは青筋を立てて訂正した。

「カルベルト、私はコアケッドじゃないのよ。あんた、人を間違えてるんじゃない?」

「間違えてなんてないよ、アイリス。君、村育ちがばれちゃうよ?言葉遣いが酷すぎる。レディーがあんたなんて、酷すぎるね。耳が痛い。」

「なんで、あんたがそんな事、知ってるのよ。」

アイリスはキッと目を吊り上げて聞く。

「さーあね。僕の情報網を侮らない方がいいよ。」

ニッと笑ってカルベルトは言う。きっと、普通の女の子なら、その笑顔を見ただけで倒れるだろう。しかし、アイリスは眉間に皺を寄せただけだ。

「そうね。これからは気をつけるわ。私、急いでるの。どいてくださる?」

アイリスはツンツンと言う。

「ねえ、アイリス。どうして、君と王女様が似てるか気にならない?君は他人の空似だって言うけど、本当にそうだと思う?」

アレンはアイリスの言葉を無視して、聞く。唇は魅惑的な弧を描いていたが、目は冷たくアイリスを見下している。アイリスは悪寒が走った。

「そうだと思うわ。失礼!私、急いでるの。」

アイリスはアレンを突き飛ばすように歩き出す。これで同じことを聞かれたのは五回目だ。

―あいつ、何考えてるの・・・?―

アイリスは眉間に皺を寄せる。

その時、コアケッドが近付いてきた。

「アイリス?探したのよ。何処行ってたの?」

「えっ、私、どこにも行ってないよ?何言ってるのよ、コアケッド。」

アイリスは慌てて笑顔を作りながら言う。

その表情を見て、コアケッドは眉を顰めた。

「・・・ねえ、アイリス。もうすぐ、わたくし達の誕生日でしょう。それで、お城でパーティーを行うから、あなたもいらっしゃいよ。お父様もお母様も、あなたに会いたいそうだし。」

少し、寂しそうな表情でコアケッドは言う。

「でも・・・家族水入らずでやるんでしょう?私なんかが行ったら、邪魔になるだけじゃない?」

「フフ。アイリスは面白い事を言うのね。村では誕生日は家族で祝うものなのかしら?ここではそんな事無いわよ。わたくしの誕生日ですら、政治的な舞台になるのですからね。アイリスが来てくれたら、どんなに嬉しいか。もちろん、ローヤルティーも呼ぶつもりよ。あなたとローヤルティーくらいしか、友達と言える友達はいないもの。ねえ、来てくれるでしょ?」

コアケッドは真剣な瞳でアイリスを見る。

アイリスは最近気が付いていた。コアケッドはいつも、アイリスに対して真剣に接していると。彼女の頼み事はいつも真剣で、彼女は滅多にたのみ事をしないと。コアケッドは軽々とノートを貸してだの、嘘を吐く手伝いをしてくれだのと決して言わないのだ。どうしても、友達としてそうして欲しいと願う事しか口にしない。

その、彼女の大きな思いに自分はしっかり答えられているだろうかと、アイリスはいつも不安に思う。もちろん、今回も不安に思った。

アイリスはそっと瞳を閉じる。

―大丈夫・・・。―

ギュッと自分に念じると、アイリスは緑の瞳をきらめかせた。

「喜んで参加するわ、コアケッド。」

アイリスの答えを聞いて、コアケッドは顔中に笑顔を浮かべる。

アイリスもつられて笑顔になった。

       

村にいた頃は、ちょうど収穫の時期だったので誕生日の辺りは長いお休みだったが、都では収穫など関係なかったので休みも無かった。ただ、誕生日の前の日に、パーティーに参加するものだけ、家に帰された。

帰り際に、王女は茶目っ気たっぷりに言った。

「明日のドレスは、私が用意するわ。ちょっと、面白い事をやりたいのよ。」

コアケッドは悪戯っ子のように言うが、目は真剣そのものだ。少しイヤな予感がしたが、アイリスが断わる事で悲しむコアケッドを見たくなかったので、アイリスは快承した。

「いいわよ。それじゃあ、早めにお城を訪ねるわね。」

それを聞いて、コアケッドはホッとしたような、覚悟を決めたような顔をした。

「ええ。待ってるわ。」

その答えを聞いて、アイリスは自分の判断は正しかったのだろうかと不安に駆られたのだった。

        

コアケッドがアイリスの為に用意したドレスは、真紅のシンプルなドレスだった。もちろん、襟はセーラーカラーだ。

「さあ、アイリス。これを着てちょうだい。わたくしは、こちらを着るわ。」

コアケッドはニッコリと言うと、自分のドレスを披露する。

コアケッドが持っていたのは、薄いピンクのドレスだった。型はアイリスのものと全く一緒のように見える。襟までも一緒だった。

「コアケッド・・・?」

アイリスは心配そうに王女を見る。

「素敵でしょ。わたくしたち、色違いのドレスを着るのよ。わたくしたち自身が、色違いなのだもの。とても面白い余興だと思わない?」

コアケッドはニコニコと言うと、ドレスを着るために去っていく。

アイリスはコアケッドの言葉を聞いて、固まった。

―コアケッドは・・・私と似てるって思ってるの・・・?わたくしたち自身が、色違い・・・?―

アイリスはギュッとドレスを握り締める。泣きたい気持ちで一杯だった。

  

  

   

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Photo by Four seasons

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