第二章
秋も深けたころ、ストーシー先生が、村にある山へキノコ狩りに連れて行ってくれた。
皆、大喜びで森の中に散らばっていった。アイリスもアマンダと一緒にキノコを採りに行った。山の中は、キノコがたくさんあった。アイリスはいろんなキノコを取った。その中には毒キノコも多少あった。
アイリスはキノコを取るのに夢中になり、アマンダと離れてしまった。アイリスは、アマンダとはぐれてしまったことに気が付くと、アマンダの名を呼びながら、森中を走り回った。すると、足を滑らせてしまった。アイリスの目は木々の合間から見える青い空を写す。アイリスは崖を転がり落ちて、崖の下を通っていた小川に落ちた。
アイリスの記憶はそこで途絶える。
「アイリス、アイリス、目を覚ませよ・・・。」
―うるさいわね・・・。―アイリスは思った。―今、すごい良い夢を見ているのよ。もうすぐお母さんに会えるんだから・・・。―
「アイリス、アイリス、起きろってば!」
―私を揺らしているのは誰なの?うるさい・・・。―アイリスはゆっくりと目を明けた。
森の中・・・。
もう一度明けてみた。体が冷たい・・・。体がびしょ濡れだ。その上、服もボロボロである。
上を見上げると崖が見える。キノコがアイリスの周りに散らばっている。
―思い出した!私、キノコを取っていて、崖から落ちたんだった!―
「アイリス、大丈夫かい?」
アイリスは振り返った。ハシバミ色の髪を持った、ローヤルティーがそこにいた。
「ええ、多分。少し頭が痛いけど、大丈夫よ。」アイリスが答えると、ローヤルはホッとしたようだ。
「歩けるかい?」ローヤルは優しく聞いた。
「ええ、多分・・・。」アイリスは立とうとした。その時、左足に激痛が走った。
「痛いっ」アイリスはうずくまった。
「大丈夫かい?足を痛めたようだね。無理しなくていいよ。僕がフウローリーさんの所まで、運んであげるよ。」そう言うと、ローヤルはひょいとアイリスを持ち上げ、芝の上に優しく降ろした。アイリスはドキドキした。
ローヤルは上着をアイリスによこした。「寒いだろう?これを羽織って。」
「ありがとう。」アイリスは顔を赤くしながら、小声で呟いた。
ローヤルはハンカチを濡らし、アイリスの痛めた足に巻きつけた。
「よし、フウローリーさんの所に急ごう。」
アイリスは、恥かしさのあまり顔を真っ赤にしながら、ローヤルの首に黙ってしがみついた。二人は道中ずっと黙っていた。
「フウローリーさん。お孫さんが足を怪我しちゃったんです!」ローヤルは裏口から大声で呼びかけた。
すぐに夫人はキッチンから飛んでやってきた。
「わかったわ。ここまで運んでくれてありがとう・・・。」夫人は心配そうな顔をして言った。
「僕、アイリスを運びます。どこに運べばいいですか?」
「じゃあ、二階のこの子の寝室にでも・・・。」
「彼女、川に落ちちゃって、びしょ濡れなんです。」
「なんですって!じゃあ、居間の長椅子に寝かせてちょうだいな。」
アイリスは、二人の会話を、真赤になった顔をローヤルの背に押し付けながら聞いていた。
ローヤルはアイリスを優しく長椅子に降ろした。
「ローヤルティー、悪いけど、この子を着替えさせたいから、キッチンにでも行っててくれないかしら。あんたも濡れているから、このタオルで体を拭いて温まっていておくれ。孫のせいで風邪を引かれちゃ困るから。濡れた服は脱いで乾かしてね。夫ので構わないんなら、これを着てちょうだいね。」
ローヤルは衣服を受け取ると、キッチンに消えた。
次にローヤルが現れた時は、アイリスの祖父の服を着ていた。背丈はピッタリだったが、ウエストはぶかぶかで、ベルトで締め上げていた。
アイリスの顔は髪と同じように真赤になった。男の子に寝巻きを見られてしまったのだ。アイリスの寝巻きはリボンもフリルもない。ただの白いネグリジェだ。ローヤルはアイリスをサッと抱き上げると、軽々と二階のアイリスの部屋に連れて行った。
アイリスの部屋はとても簡素であった。ベッドは天蓋つきベッドであったが、その他は、衣装箱が一つと、水差しにテーブルと椅子、裁縫箱、それに彼女が今まで作った数少ない作品だけだった。
「ありがとう。」アイリスは小さく言った。
「これからは仲良くしてくれる?」ローヤルは顔を赤くしながら言った。
「今まで御免なさい。もちろん仲良くしましょう。」アイリスも赤くしながら言った。
「よかった。素敵な部屋だね。君の足が治るまで、毎日お見舞いに来るよ。」
ローヤルは祖母と一緒に下へ降りていった。顔を真っ赤にしたアイリスを置いて・・・。
Photo by Four seasons