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3.生贄 その二

 

三日後、ヴァンニア魔女にか、アレストロの書にかはわからないが、とにかく生贄に選ばれた二十四名が、ウィニーレイン国の城にやって来た。

エシア女王は、彼らのために晩餐会を開いた。

「みんな、楽しんでください。」柔和な笑みを浮かべて、エシア女王は彼らに話しかけたが、生贄に選ばれたエシア女王の孫たちは、みんな浮かない表情を浮かべていた。

―みなの顔が青白い・・・。みな、二十歳にみたない若者たち・・・。この内、何人帰ってこれるだろうか・・・。―

思い出すのは、二十年前の惨劇。全てを失ってしまったあの年だ。

あの惨劇を、今年も繰り返してしまうのか・・・。

その日の晩餐は、とても陰鬱なものだった。

いつも笑顔を浮かべているウィンですら、今にも泣きそうな表情を浮かべていた。

  

夜、ウィンは自分の寝室に入ると、窓から月を見上げる。満月が柔和な光を放っていた。

―昔が懐かしい・・・。トム兄さまの悪戯。意地悪なウィンネ姉さままで懐かしいわ。ウィンナ姉さまに色んな遊びを習って、イリネー姉さまはいつも私を守ってくれた・・・。また、お母様や、お父様、兄さま、姉さまと暮らしたい・・・。―

ウィンの瞼から一滴だけ、涙が零れ落ちた時、ドアがノックされる音がする。ウィンは急いで涙を拭うと、扉を開けた。

戸を開けると、笑顔のイリネーがいた。

「久し振りね、ウィン。」

「イリネー姉さま!」ウィンはイリネーの笑顔を見て、自然と笑みを浮かべる。

「今年の夏は、一緒に過ごせなかったわね、ウィン。今度、イリンに戻ってきてね。お父さまもお母さまもあなたが随分綺麗になってるから、顎を外していたわ。」

「姉さまこそ、すっごく綺麗になって。」ウィンはイリネーに褒められて、頬を染めながら応える。

「ありがと。それにしても、顔が青いわね。どうしたの?」イリネーは少し、眉を顰めて聞く。相変わらず、よく気が付く人だ。

「・・・私、全てが重荷なの。この頃は、王女までもが嫌になってきたわ。自分は何にもできないのに、みんなは私に期待して・・・。」ウィンは再び涙が零れそうになるのを必死に止めながら言う。

「選ばれたからには、頑張らなきゃ。私がついてる。・・・ね?」イリネーは優しく微笑んで言う。

「でも・・・。」

「でも?」

「でも、来年の三月には、姉さまと私は敵同士なのよ。私が生き残るには、姉さまたちが死ななきゃならない・・・。私、そんなのイヤ!!」ウィンは肩を震わせて言う。

「大丈夫。私もあなたも、簡単にヴァンニア魔女の言う通りにしようなんて、考えてないでしょ?まだ、時間はあるわ。私達の方でも方法を考えるから、あなたはあなたの方法で、みんなが助かる方法を探してちょうだい。」イリネーはウィンの鼻を弾いて言う。

「うん。」

「それじゃあ、おやすみ。」

イリネーは優しい笑みを残して、去っていった。

 

イリネーは扉を閉めると、瞳を瞑る。すると、涙が一筋、流れる。

―あんな小さな肩に、たくさんのプレッシャーをかけられて・・・。でも、あなたとエリックが頑張らないと、私達の命は無いわ。ヴァンニアは必ずあなたを殺そうとする。あなたはヴァンニアを倒す力を持ってるから・・・それを守るのが、私たち、王族の役目・・・。だから、お願い・・・。ヴァンニア魔女を倒す鍵を、早く・・・早く見つけてちょうだい。・・・少しでも多くの命を、未来へ繋げるように・・・。―

 

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