第三章

 

 

 

アイリスの足は、一週間アイリスをベッドに縛り付けた。

だが、毎日アマンダが楽しい話を持ってやって来たので、アイリスは少しも退屈しなかった。それに、アマンダが帰った後、必ず花を持ち、差し入れを持ってローヤルティーがやって来た。大抵「母からです・・・。」と言ったが・・・。差し入れはリンゴが多かった。ローヤルの家のリンゴ園は、おいしくて有名なのだ。

ローヤルは、アイリスにその日習った所を隈なく教えてくれたので、アイリスは授業に遅れる事もなかった。

 「そう、コアケッド王女の誕生日です。それにね、実はアイリスの誕生日でもあるのよ。皆さん、知っていましたか?アイリスと王女様は生まれた年も誕生日も同じなのよ。」クラス中がざわめいた。アイリスは顔を真っ赤にした。

先生はまた大きな声を出した。「さあ、皆さんでアイリスにおめでとうを言いましょう。アイリス、前に出なさい。」

 アイリスはゆっくりと前に出た。アイリスの顔は髪と同じ色になっている。前になど出たくなかった。

黒板には今日の授業で使うコアケッド王女の肖像画が貼ってあった。コアケッド王女が十二歳になられた時に、描かれた肖像画だそうだ。アイリスは嫌々ながらその隣に立った。

コアケッド王女は、黄金色の髪に綺麗な青い目をしていて、美しいブルーのドレスを着ている。肖像画によれば、コアケッド王女はふっくらと女らしくなりつつあった。しかし、十三歳になったばかりのアイリスは背が低く、痩せていて赤毛で灰色の瞳、雀斑だらけの顔で、コアケッド王女と並ぶと大変幼く見える。同じ日に生まれた子どもは、何処と無く似ているものだと言われているが、二人の少女はとてもでないが似ているとは言えなかった。しかし、一人だけ二人が似ていると思った者がいた。ローヤルティーだ。

 先生が口を開き、それに続いてクラスの子も口を開いた。

 「ハッピー・バースデー、アイリス!」

 「・・・ありがとう。」アイリスは小声で答えると、席に着いた。

こんな調子が一時間近くあった。アイリスは先生の話を適当に聞きながら、「神の書」を読んでいた。アイリスは勉強を続ける為に、神学校に進学したかった。しかし、神学校は身分の高い人間しか行けないとされている。アイリスにとっては夢のまた夢であった。同じ日に生まれたのに、境遇が違いすぎると、アリスは思わずにはいられなかった。

アイリスは生徒がみんな先生に注目しているのを確認すると、そっと母親の形見であるメダルを取り出した。父親がいつも持っていろと言ったので、首からかけているのだ。この、母親の形見のメダルには、「神の書」に描かれている神の目印が彫られている。そして、裏には「神の言葉」で何事か彫られていた。父親は肌身離さず持っていろといったが、そのメダルを簡単に人に見せてはいけないと言った。この、鈍く光るメダルは、どうして神の目印が彫られているのか?アイリスは父親が亡くなってからずっと考えているが、答えは全く浮かばなかった。それに、もう一つ。フウローリー夫人は、アイリスの父親を信仰心の無い男だったと信じているが、アイリスの知っている父親は、大変信仰心が篤く、神の書を知り尽くしている人だった。なぜ、祖母がそこまで勘違いをするのか、一緒に住んで数ヶ月経った今もわからないままだ。

学校がやっと終わった。みんなは先生の周りに集まって、コアケッド王女の事にについてや、都の事について聞いていたが、アイリスは先に帰ることにした。今日はアマンダは風邪で休みなのだ。

アイリスが教室から出ると、誰かがアイリスの肩に触れる。

「お誕生日おめでとう、アイリス!」ローヤルティーだ。彼は林檎を指し出している。「誕生日プレゼントだ。もっと欲しい?」

アイリスははにかんだ笑顔で受け取った。

「いいえ、うれしいわ。ありがとう。」

「一緒に帰ってもいいかい?」

「ええ。」

二人は歩き出した。

「ううん、違うよ。僕、小さい頃は都に住んでいたんだ。でも、父さんの仕事でこっちに移ってきたんだよ。アイリスは今までどこで暮してたの?君の事は、今までここの人達、全然知らなかったんだ。気付いたら、君の母さんが村を出ていて、知らない人と結婚していたらしい。相手が誰だかわからないし、フウローリーさんに聞いても教えてくれなかったそうだよ。」

「父と一緒に遠くの森の中で暮してたのよ。・・・母は父と駆け落ちしたの。おばあさまは父の事が嫌いでね、二人の結婚を認めなかったから。」

「そうだったんだ・・・。森での生活ってどうだった?」

「楽しかったわよ。父もいたし。毎日、父が『神の書』を私に読んでくれて、都の話を面白おかしく話してくれて・・・。父は昔、都にいたのよ。でも・・・おばあさまが言うには、父は都で問題を起こして追放されたんですって。おばあさまから直接聞いた話では無いんだけどね・・・。って、喋りすぎちゃったわ。お願いだから、誰にも言わないでね。」アイリスは少し顔を青くして言う。フウローリー夫人はアイリスが父親の話をするのを大変嫌っているのだ。

「もちろん言わないさ、お姫さま。」ローヤルは笑いながら言うと、アイリスの頬にキスをした。

「ちょっと、ローヤル!」アイリスは顔を真っ赤にして大声を上げる。

「口止め料ぐらい、いいだろう?」

アイリスは困った顔をする。

「じゃあね、アイリス!」ローヤルは走り去った。

それは秋も深まる夕暮れ時のちょっぴり甘い思い出だった。

 

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これにて一節はおしまいです。次は二節。アイリスは随分大きくなります。

12歳のアイリスについて、日記にて、紹介しています!

Photo by Four seasons

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